オンライン学習コミュニティの作り方(コンセプト編)

学習コミュニティを作る

オンラインコミュニティを作るのは一見簡単です。しかし場所さえ作れば、自動的にそこが侃々諤々と活発にディスカッション/対話(ダイアログ)してもらえるようになるかといえば、そう簡単にはいきません。
 
オンライン大学や企業大学(コーポレートユニバーシティ)で、オンライン上に「学習コミュニティ」をつくったが、FAQ程度のやり取りがメインで、あとは閑古鳥が鳴いている、実質的に「お知らせ掲示板」になっているといったケースが多いのです。
 
(もしくは、受講生が勝手にFacebook グループを立ち上げて盛り上がっているという笑えないケースもよくあります。)
 
ではどうすれば良いのでしょうか?
 
そのヒントになるのが「正統的周辺参加」というコンセプトです。
 
これはレイヴとウェンガーが著書「状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加」で提唱したアイデアで、英語で
 
LPP(Legitimate Peripheral Participation)
 
といいます。

かなりざっくり説明すると、何らかのコミュニティがあるとき、その中心にいるのが、そのトピックのエキスパート達だとすると、新参者は周りから様子を見ながら、だんだんと中心に向かって学んでいく過程こそが「学ぶ」ことだという考え方です。
 
たとえば、もしあなたが新しい勉強会に参加したとしたら、通常は元々の参加メンバーを無視して、初回からどんどん発言したりはしないでしょう。
 
まずは黙って、どんな雰囲気の集まりなのか、誰がどんなレベルの発言をするか、などを注意深く観察するのが普通です。それも立派な学習です。
 
そして回を重ねるごとにだんだんと雰囲気に慣れていき、周りのメンバーとの関係を構築しながら必要な知識を学び、だんだんとそれなりのレベルで適切に発言できるようになっていくのです。
 
そして中心に徐々に近づくにつれて
 
「ビジター」→「ROM(見るだけ)ユーザー」→「参加者」→「常連」→「リーダー」
 
として成長していきます。
 
このような進化は、本人も意識しないような社会的な学びなのです。


はじめは黙っていても良い

 
このような学習プロセスはどこでも同じです。
 
学習者が黙っていると、ついつい受け身で聞き流していると思いがちですが、講師と学生、また学生同士の会話を聞きながら、その人なりに学習している可能性が高いのです。
 
ただリアルの会合であれば、新参者が黙っていても、他の参加者の話を聴いている様子から、本人が考えているかどうかが予想できますが、オンラインはそうはいきません。
 
黙っていると、見かけ上はまったく存在していないのと同じに見えてしまうのです。だからといって、積極的に参加を促せばいいかといえば、そうも言えないのです。
 
ここに難しさがあります。
 
そこで「オンライン学習ファシリテーター(OF)」が必要となります。OFの役目は、基本的にはフェイストゥーフェイスでの会議でファシリテーションと同じです。たとえば、ディスカッッションを進行したり、議論を整理して噛み合わせたりするような役目ですが、ここにオンラインならではの要素が加わります。
 
たとえば、新人のアクセスログを見ながら各人の状態を確認し、脱落しないようにつかずは離れずで見守ります。
 
その後、だんだんと慣れてきたと思ったら、参加を促すなどのサポートを行います。そして、自然にコミュニティのメンバーにとけ込めるようにリードするのです。
 
またリアルに比べて、オンラインではちょっとした言葉のあやで、お互いの勘違いがエスカレートし、対立が起こる事もありますので、その辺りを気をつけてフォローする事も重要な役割です。
 
上記は一例ですが、オンライン学習コミュニティはいったんうまく機能しはじめると、リアルの会議よりも、時間をかけて深い議論ができる場にすることができます。
 
またシステム的に「いいねボタン」にあたるものを設けて、参加のハードルを下げるのも上手いやり方です。


オンライン学習コミュニティの優位性

 
何と言ってもオンライン学習コミュニティが圧倒的に良い点は、記録が残る点です。
 
参加者は理解できない用語が出てきたり、すぐには理解できないような難解なディスカッションになっていたとしても、それらを何度も読み返したり、知らない用語や理論は検索しながら、自分のペースでゆっくり考えれば、確実に理解できます。
 
またファシリテーターが議論を振り返って総括したり、どの発言が参加者の議論が深まるきっかけになったかを分析して、みんなに提示したりすることもできます。
 
さらに、議論が全く盛り上がらないときや、コンフリクトが起こったときに、それをデータに基づいて検証する事も可能です。
 
実際にオンライン学習コミュニティなどを運営していると、なぜだか分からない理由で、異常に盛り上がったり、閑古鳥が鳴く事があります。
 

それらを放置しないで、要因をデータに基づいて徹底的に分析し、講師にフィードバックしながら、次回の授業計画を立てるお手伝いをする事で、前回と同じ失敗をしないよう対策が打てるのです。
 
この仮説検証サイクルが回り始めると、その後は繰り返せばくりかえすほど、授業の品質が安定し、さらにアップしていきます。
 
このようにeラーニングの中でオンライン学習コミュニティを機能させ、講義の価値を何倍にも増幅させ、ソーシャルラーニングが十分行われる場を確実に作るサポートをする事が運営者に求められます。
 


コレクティブリフレクション 

また「書く」ことを中心にしたオンライン学習コミュニティでは、リフレクション(内省)が進むという副次的効果があります。
 
参加者は自分が考えたり、経験したことを具体的な「言葉」に変換することによって、自分の考えを改めて整理するきっかけができます。
 
「体験」をそのままにしておいては、ただの「体験」に終わってしまいますが、それを客観的に振り返り、そこからレッスン(意味)を見出すことによって、その体験は、貴重な知恵を含んだ「経験」に変換することができます。
 
また、しゃべって言葉にするだけはなく、「書く」という一見面倒な行為によって、自分の言葉を客観的に眺められるようになるため、さらに深いリフレクションが可能になります。
 
そしてそのような言葉をグループ間でシェアし、相互にフィードバックを得ることで(=コレクティブリフレクションを通じて)、ひとりではたどり着くことのできなかった深い洞察を得ることもできるのです。
 
 


下記のページは大変参考になります。
 
▼正統的周辺参加(LPP)と足場づくり (熊本大学)
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/3Block/09/09-1_text.html
 
▼中原淳先生のコラム(東大→立教大)
リフレクションについて整理してみた
CSCL(Computer Supported Collaorative Learning)」について
悲報!誰も利用しない「残念な社内SNS」が生まれてしまう、これまた残念な「4つの理由」!?
 


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