オンライン学習コミュニティの作り方(コンセプト編)

はじめに

オンライン学習が年々盛り上がりを見せています。特に2020年4月時点以降は動きが激しく、コロナ禍前の4月時点でオンライン学習を採用している日本の大学は1割程度でしたが、現在では90%以上になっています。また企業研修もほぼ同じような傾向を辿っています。
 
筆者は2001年よりEラーニングの世界に関わり、海外大学院とともに社会人向けオンラインビジネススクール(MBA/経営大学院)の立ち上げを担当し、12年間にわたり、その統括責任者を務めてきました。
 
「E-ラーニング」といえば、講義ビデオやスライドを見ながら、クイズ形式で回答していく単調なものを想像する方も多いかもしれませんが、私がチームで作り上げてきたのは、講師や参加者がお互いにディスカションや対話を通じて学び合う
 
「オンラインコミュニティ型」
 
の学習プログラムでした。
 
もちろん開始当初はネガティヴな声も多く寄せられ、心折れそうな時もありました。
 
現在では「コロナ禍でイヤイヤながらオンライン教育を始めてみたら、案外よかった」という声も多く聞かれます。
 
対面には対面の良さがあり、オンラインの良さがある。そして共存できる。
 
この当たり前のことを客観的に検証しておくことで、コロナが落ち着いた瞬間、精神論に押されて全面的に対面教育に戻るのを防ぐことができます。
 
実際に参加者がお互いに切磋琢磨しながら成長していくコミュニティ型のオンライン学習には、多くのメリットがあります。
 

-提供コンテンツをベースに、参加者間で深い対話/学びが生まれる
-参加者間で一体感が生まれる(退会率の低下に貢献する)
-「フロー型モデル」から「ストック型モデル」に移行できる
 (毎回イチから集客するセミナーモデルは「焼畑農業」的に顧客を刈り取ってしまい、先細るリスクが高い。広告宣伝費もかかる。)
-主催者も参加者の生の声が聞ける(&対話できる)ので面白い。

 
逆に、対話が生まれる分だけ、それをうまくファシテートする技術や、参加者自身にも、自身への反論を冷静に受け止めたり、対立を乗り越えて新しいアイデアを生み出していくスキルが求められます
 
このコラムでは、年々注目度が高まっているオンライン学習・コミュニティをうまく軌道に乗せるためのコツについて考察していきます。
 


盛り上がらないのはユーザーのせいではない

どこでも高速でつながるネット環境、タブレットやスマホなどの登場、動画配信環境の整備よって、年々Eラーニングを導入するハードルが下がっています。
 
もともとネットを通じた動画授業には、
 
そのテーマを喋るのに最もふさわしい第一人者の講義が受けられる
 
という圧倒的なメリットがありました。
 
ただその一方で、
 
「集まれないから仕方なくEラーニングを実施する」
「コスト削減のために導入する」
 
といった消極的な理由が多かったのも確かです。
 
ところが最近は、
 
「学習者の状況を正しくトラッキングできるからあえてEラーニングでやる」
「集合研修ではできない一人ひとりのレベルに合わせた学習機会を提供する」
 
といった積極的な理由からEラーニングが選ばれるよう変化してきています。
 
実際に、学習データが蓄積されビッグデータ化されることで、AIが個人個人に最適化した出題や指導をオンラインで出来るようになり、教室での集団よりも学習効果が高いことが多くの事例で証明されています。(多くの事例は小中高での指導事例ですが、社会人向け学習にもAIが入ってくることは時間の問題です)
 
ただ、現場レベルでは
 
「Eラーニングって受講生のモチベーションが上がらないんだよね」
「やっぱり対面にはかなわないよ」 
 
といった声が根強くあるのも確かです。
 
また実際の運用現場では、教科書には載っていない様々な問題が起こります。
 
それらの原因を一つひとつ調べ、対策案を考え、そして実行して結果を測定し、さらなる改善を図ります。このような仮説検証プロセスを繰り返し、うまくいった方法を「標準化」していきます。
 
そして、そこを土台にして新たな挑戦を行い、さらに磨きをかけていくのです。
 
そんなEラーニングの現場で、昔から最も大きな課題として挙げられるのが、
 
「修了率(完了率)の低さ」
 
です。学習者が途中でドロップアウト(脱落)してしまう理由を
 
やる気がないのが悪い
ちゃんと修了した人もいるんだから脱落者に根性がなかっただけ
そもそもEラーニングってそんなものなんだ
 
などと言い訳してしまったら、その時点でプロとして失格です。
 
実際、筆者自身も昔からいろいろな”通信教材”にトライしては挫折してしまった苦い経験がありますし、始まった瞬間に眠たくなるEラーニング教材が多数あるのもよく知っています。また私の担当していたMBAですら、初期はドロップアウトをいかに減らすかという戦いでしたが、試行錯誤の上、それを克服することは十分可能でした。
 
したがって
 
「脱落の原因は参加者だけにあるのではない」
 
と断言できます。
  
「参加者が途中で脱落してしまったのであれば、すべて運営側の責任である。」
 
少なくとも、それぐらいの真摯さと気構えで真因を突き止め、責任を持って問題を解決する必要があります。(多くの場合は学習システムのデザイン(Instructional Design)に改善の余地があるのです。)
 


とりあえずの解決手段

 
たとえば、
 
「脱落しそうな人に、定期的に応援メールを送る」
「電話をかけて励ます」
 
という「チアリング(Cheering)」(まさに英語の”応援”です)の手法には一定の効果があります。Eラーニングは、物理的にどこかの指定された場所に決められた時間に集まる訳ではないので、こういう
 
「受講を思い出してもらう(リマインドする)」
 
というやり方は一定レベルで有効です。
 
ただ、もし「友人と19:30に会う」「知り合いが日曜のテレビ番組に出ている」としたら、いちいちリマインドされなくても覚えているはずです。
 
ということは、メールやメッセンジャー、電話で受講を促すというのも、根本的な解決策ではありません。(もちろんカレンダー機能を実装して、リマインドのメールやプッシュ通知が飛んでくるようにできれば便利ではありますが。)
 
実際に受講がストップしている人に理由をお聞きすると、その答えは99%決まっています。
 
忙しいから
 
です。もちろんそれは100%本当です。みんな忙しいのです。
 
ただ、そこで諦めず「なぜ忙しくて学習できないか」をさらに聞いていくと、
 
「サイトにアクセスする心理的ハードルが高い」
「要求される学習量が多すぎる(理解に時間がかかる)」
「内容が役に立つとは思えない」
 
などいろいろな理由が見えてきます。
 
要は、他のものが優先されているのです。
 
ではどうすれば
 
「やればやるほど、時間を忘れて思わずのめり込んでしまう」
「次回の講義が待ち遠しい」
 
と思ってもらえるようなEラーニング、そしてオンラインコミュニティが作れるのか?
その具体的方法を見ていきましょう。


>次ページ「3つの基本形

全ての機能を実際に無料でお試しできます!