オンライン学習コミュニティの作り方(コンセプト編)

面白い講義動画を作る その2

 
以前、オーストラリア人の大学教授と話していた時の話です。
 
日本の大学のパンフレットを見ながら、不思議そうな顔をしているので、何かと思って聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
 
「なんで日本のプロフェッサーは、みんなしかめっ面なんだ?」
 
生粋の日本人である私には違和感はなかったのですが、講師一覧のページをよくよく見てみると、確かにみんな怖い顔をして写真に写っているのです。(欧米の大学教授のプロフィール写真は、大抵の人が笑顔なのでよけいに変に思ったのでしょう。)
 
当たり前すぎて見過ごしている事を指摘されて、はたとその理由について考えてみました。
 
これは私の仮説ですが、日本でいう”先生”は、師匠のようなイメージを期待されているので、多くの先生はその暗黙の期待に応えるためにわざと威圧感を出し、学生に尊敬される(もしくはナメられない)ようなキャラを演じているケースがかなりあるのではないでしょうか。もしニヤニヤしていたら
 
「インテリジェンスがなさそう」
「学生に迎合している」
「(緊張感が感じられず)信頼感が下がってしまう」
 
と思われてしまうという恐れもあるかも知れません。(実際にお会いすると、にこやかで楽しい先生が多いのですが。)
 
もちろん、欧米でも米ウェストポイント(陸軍士官学校)のホームページを見ると、教官はやや怖い顔をしています。その意味では、日本の大学教授の写真と共通点があるのかも知れません。つまり「ここは厳しい場なんだ」という暗黙のメッセージを表情を通じて伝えているのです。


映像講義はエンターテイメント(Edutainment)

 
ここからがやっと本題です。講義映像を撮影する際に、講師がカタログの写真と同じように、怖い顔をしながら淡々と、そして突き放すようなトーンで授業してしまうと、面白くも何ともない映像になってしまいます。(原稿の棒読みはさらに映像をつまらなく見せます。)
 
その上、前回のコラムでご紹介した通り、講師の人柄が感じられる余談の部分をばっさりカットすると、「つまらなさ」はさらに増幅されてしまいます。
 
逆に話し方は少々下手でも、見ている人が
 
この先生は自分の話している事が本当に好きなんだな
大の大人がこんなに嬉しそうにしゃべるんだから、”何か”があるに違いない
 
ということが映像で伝われば、とても良い映像講義になります。 

我々の脳には人を模倣する「ミラーニューロン」という神経細胞があり、人が何かに興奮しながらしゃべっているのを見ると、自分の脳にある同じ部位が無意識に興奮します。
 
また心理学でも面白そうに何かをやってみると、周りの人も面白そうだと惹き付けられる「ソーヤー効果」がよく知られています。
 
(*トム・ソーヤーや自宅のペンキ塗りを楽しそうにやることで、友達に手伝わせるのに成功したストーリーから命名されました。)
 
となれば、講義でもしゃべっている人(講師)が、自分が教えている内容はエキサイティングで、自分も心からエンジョイしていて、その面白さをみんなに分かって欲しいんだという気持ちが、画面を通じて自然に伝わってくる事が最も大切なのです。
 
そのためには、eラーニング作成者側は、ある程度意識して、講師に「権威を保つために、固めの表情で難しめにしゃべろう」という固定観念を取り去ってもらう必要があるのです。
 
そして、その先生の素の部分を殺さず、講義されているトピックにご自身がのめり込んでいる姿が、画面を通じてにじみ出るようにお手伝いすれば良いのです。

たその道の専門家であるはず先生が、机の上の原稿を棒読みしながら、淡々としゃべっている講義映像を見ることがありますが、絶対に避けるべきです。(国会の答弁ではないのですから。)
 
なぜそういう映像になってしまっているかと言えば、多くの場合、制作側が
 
極力NGを出さないように、事前の打ち合わせ通りにしゃべってください
 
的な、空気を漂わせてしまったり、
 
「汎用的に使う映像なので、企業などの固有名詞や、季節感の分かるワードを使わないでください」
 
などと余計なリクエストをしているからなのです。(実際に、打ち合わせで気軽にお話しすると本当に面白いのに、映像講義になるとその面白さが1/10になることもよくあります。)
 
ただでさえ視聴者のリアクションが分からない中でカメラの前に立ち、不特定多数の人に後で突っ込まれるのではないというプレッシャーのなかで喋るのは難しいのです。
 
だからこそ自然な映像を作り出すよう演出するのが、プロに求められる技術です。
 
そしてそれがうまくいけば、画面を通じて講師の本当の魅力、そして”魂”までが伝わる最高の講義映像を作ることが出来るのです。
 
マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」や、「東進ハイスクール衛星予備校」などはそのよい例でしょう。


>次ページ「面白い講義を作る その3

全ての機能を実際に無料でお試しできます!